「鳥が田畑を荒らす」「イノシシが作物を掘り返す」――そんな現場の声から、ひとつの新規事業が生まれました。自動車修理・整備を本業としていたオート工芸社が、自社の自動車用技術を応用して鳥獣害対策機器を開発。さらに、短期で特許を取得し、新たなビジネスの柱へと育てています。今回は、その取り組みの背景から、出願・取得までの歩み、そして特許が契約・商談面にもたらした変化までをご紹介します。
1.課題認識:農家からの相談をキッカケに
オート工芸社は、自動車の修理・整備を長年手がけてきた会社です。そんな中、地元農家の方から「鳥獣害がひどくて、なんとかしたい」という相談を受けました。この相談が、鳥獣害対策機器という新たな発想の出発点となりました。
2.技術転用・新規事業への挑戦
自動車整備という本業で培った「機械構造」「駆動制御」「メンテナンス性」といった技術を、まったく別分野である農業・鳥獣害対策機器へ応用したのが特長です。つまり、オート工芸社にとっては「自動車整備技術を横展開した新規事業」の一環として、この鳥獣害対策機器の開発に取り組んだわけです。
3.特許出願から権利化まで:スピード勝負
この機器をめぐっては、すぐに特許出願を決断。出願から権利取得までに約 10か月 を要しました。なぜそんなに早く進めたのかというと、新規事業立ち上げを迅速に推進するために、特許庁の「早期審査制度」を活用したためです。実際、日本の特許制度では、一定の条件を満たせば通常より早く審査を進められる「早期審査」があります。
しかし、審査過程では思うような結果が得られず、「拒絶査定不服審判(拒絶査定を不服として審判を請求)」を経て、最終的に権利化に至りました。このようなプロセスを経たからこそ、早期にビジネスを動かせる権利を手にできたわけです。
4.特許取得による効果:商談・交渉のスムーズ化
特許を取得したことで、オート工芸社はこの機器について “独自技術” を対外的に示すことができるようになりました。その結果、鳥獣害の関係事業者との商談がスムーズに進むようになった、という声が上がっています。つまり、特許を持つことで「技術の裏付け」「信頼性」「優位性」が明確になり、新規事業の立ち上げにおいて強みとなったと言えます。
5.まとめ・メッセージ
新規事業を立ち上げる際、技術の独自性を打ち出すことができれば、競争力を高め、外部との交渉も有利に進みます。その意味で、特許取得は非常に有効な手段です。
オート工芸社の例が示すように、たとえ本業が“自動車整備”という分野であっても、異分野の課題(鳥獣害)に技術を応用し、さらには知財戦略(早期審査・特許化)を組み合わせることで、新たな事業柱を生み出すことが可能です。
ぜひ、皆さまも自社の技術・ノウハウを再解釈し、知財を “武器” として活用してみてはいかがでしょうか。
補足:早期審査制度について
少し専門的になりますが、今回のように「短期間で特許化を図りたい/新規ビジネスを急ぎたい」というケースでは、早期審査制度の活用が鍵になります。
例えば、出願人が中小企業である、実施関連出願(発明を実施・実施予定)である、あるいは外国出願・国際出願している出願である、といった一定の要件を満たせば、通常よりかなり早く審査が始まることがあります。
本記事をご覧の方で「この発明、早く権利化して事業につなげたい」というご相談があれば、ぜひ当社までお声がけください。